人文学部学生プロジェクトインタビュー「榎本千賀子」

先生の研究分野と写真への思い

 学生:お忙しいところ、突然インタビューにご協力いただきありがとうございます。よろしくお願いします。まず、先生の研究内容についてお聞きしたいのですが、新潟大学のHPにはご専門は「映像文化論」と掲載されているのですが、研究されている分野についてもう少し詳しく教えてください。

 

写真について熱心に話す先生

 

榎本先生(以下榎本):私は映像の中でも写真を研究しています。それは新しく一緒にいらした甲斐先生と同じです。しかし、時代としては甲斐先生よりももう少し古い時代、幕末から明治の前期にかけての写真のことを研究しています。写真そのものについてももちろんですが、写真という新しいメディアが入って来たとき、日本の人々にどんな風に受け止められたのかということを調べています。「写真」という言葉はもともと絵画用語でしたが、写真は絵や写真以前に入ってきた望遠鏡や写絵などの他の映像や光学機器などと比べられながら理解されてゆきました。私は、当時の人たちが、それまで見たことも聞いたことも無い「写真」というものをどんなふうに理解したのかを、当時の写真や新聞を通じて、人々の理解の中に飛び込んで知りたいと考えています。

学生:先生はご自身でも写真を撮られていますよね。どのようなことを考えながら撮影しているのですか。

榎本:私が関心を持っているのは、人が作ったものから、人がどのように生きているのかを見るということです。人の住む家や都市からは、人がどんな風に空間を把握し、どんな風に住み、どんな風に外界と関わろうとしているかということが、とてもよく見えます。しかし写真を撮ることを通じてその興味を追求することは、私が関心を持つ都市に表れている人間と人間の関係だけではなく、写真というメディアの特性や、私自身の身体や物の把握の仕方を見ることでもあるところが面白い点です。私が都市の写真を集中的に撮り始めてから、もう10年近くが経ちました。同じことを続けていても撮っていくと変化があります。研究も同じです。新しいことが分かってくるなかで、自分自身の考えも変化していくので、ひとつのことをやっていても飽きません。自分のやっていることをよく見ていると、以前と違っているところが分かってきます。そこからまた掘り下げてゆきます。新しいことをインプットすることと、自分でアウトプットしたものを見比べることを単純ですが繰り返しています。

 

先生の作品

 

写真を研究しようと思ったきっかけ

学生:先生は、大学時代は商学部にいらっしゃったようですが、そこからどういう風に写真に興味をお持ちになったのですか。

榎本:私は大学に入ってすぐに写真部に入ったんですね。初めは遊びで写真を撮っていました。でも、3年生の時に部長をすることになり、その時に先生として豊原康久さんという方をお呼びして、写真を教えてもらう機会がありました。先生は木村伊兵衛賞という写真の芥川賞と呼ばれている賞を取った方で、私は彼に写真の面白さを教わりました。そして写真は、言葉は使わないけれども、理知的に組み立てられたもの、非常に知的なものなのだと気づいたのです。先生は写真集をたくさん貸してくださって、その時にアメリカの60年代のスナップショットなどをたくさん見ました。そこが私にとって写真の入り口になって、それからだんだんのめり込んで自分でも撮るようになったし、もうちょっと勉強しようと思って大学院に行くことにしました。

学生:写真部に入って豊原さんと出会ったことに影響を受けて写真を研究するようになったのですね。

榎本:そうですね。写真家になりたくて商学部に入ったというわけではもちろんないですし、気が付いたらそういうことになっていたということです。大学院に行ったのも、写真が専門の研究科ではないですし。大学院には武村知子さんという先生がいて、その方の文章の書き方や言葉の面白さに惹かれて、その先生の元で勉強したいと進学しました。しっかり明確な目標を立ててそれにむかってまっしぐらという感じではなかったのですが、大学に入って出会った先生や、勉強したことで大きく進路が変わりましたね。

 

新潟大学の学生と関わって…

学生:先生は新潟大学に来て、早速講義を受け持っていらっしゃいますが、どのような授業を行っているのか教えてください。

榎本:今、私が担当しているのは人文総合演習が中心なのですけども、それは大学での勉強の仕方を練習しましょうという授業なので、レポートの書き方や、ものの調べ方などこれから大事だと思うことを念頭に置いてやっています。みなさんこれからいろんな分野に進んでいく人たちなので特定の専門科目を教えるわけではないのですが、何か一つ対象を取り上げないと調べるにしても書くにしても難しいと思うんですね。それで、その時に私の興味関心である写真を前期も後期もひとつの対象として取り上げています。写真について書くのは想像以上に難しいと思います。物語があるわけでもなく、取りつく島がない。論じるときにはどんなことを手掛かりにしてもいいのですけど、だからこそどう取りついていいか分からないものでもあるんです。けれども、むしろ悩むことを通じて学んでほしいなと思っています。

学生:授業を通してみて、新潟大学の学生と関わってみてどんな印象を受けましたか。

榎本:前期後期両方とも見ていて、やはりいつも感じるのは非常に皆さん真面目だということです。

学生:えっ…(笑)

榎本:(笑)。いや、真面目な人が多いなと思います。授業に出て私が冗談みたいなことを言っても必死にメモを取ったりしている学生がいたりして。偉いなと思うことも多々あります。

 

授業風景

 

学生:もっとこういう風に学生に授業を受けてほしい、という要望などはありますか?

榎本:シャイな人が多いような気がします。最初に話し出すまでが結構皆さん緊張しているように感じます。大学は、トライして、失敗しても構わない場所だと思います。授業での発言でも、失敗をしたり、みっともないかもしれないと思わずに、たくさんしゃべってほしいです。授業に対する要望や質問は私だったら嬉しいし、「わたしはこう考える」という皆さんの意見をぜひ聞きたいです。

 

学生時代を振り返って…

学生:参考になります。榎本先生ご自身はどんな学生でしたか。また、学生時代に大切にしていたことはありますか。

榎本:すごく真面目な学生というわけではありませんでした。私は、実は商学部では入ってすぐに「これは私の受けたかった授業なのか」と思ってしまっていました。でも、面白くてもそうでなくても授業は受けて、本を読み、最低限のことはするようにしていました。それで、今振り返ってみれば、当時面白くないと思っていた授業が実は役に立ったり面白く思えたりしているんです。商業活動と写真は非常に密接に結びついていて、かなり参考になる部分も多いんですね。みなさんも、自発的に集中して一生懸命取り組める授業とそうでない授業があるとは思いますが、その時面白くないから一生面白くないし役に立たないかというとよく分かりません。自分が何に興味があるのかということは、最初は分からないのですよ。自分の興味を最初から限定してしまうよりは、とにかくたくさん読んでたくさんものを聞いていろんな人と会って、ということを大事にするといいかもしれません。最初は面白さを見いだせないことでも、社会はいろんなところがすごく複雑につながっているので、自分の興味があることと後につながりが見いだせることはしばしばあります。面白味のない知識は実はないのかもしれません。

 

新入生へのメッセージ

学生:最後に新入生の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

榎本:たくさん勉強してください。そして面白がってください。能動的に動くと面白いことがきっと見つかると思いますよ。最初は難しかったり、よく分からないことが、実は面白いことだったということは多いです。分からないことを見つけたらどんどん自分で本を読んだり調べたりしてみるといいと思います。私も研究している写真について、まだまだよく分からずにいます。でも分からないことって一番面白いと思いますよ。 

学生:ありがとうございます。貴重なお話をお聞きできてよかったです。

 

インタビューを終えて

身近に存在しながら実は奥が深い写真。写真について話す先生はとても生き生きとして楽しそうでした。インタビュー中も、優しく丁寧な口調の中にも写真に対する熱い思いがひしひしと伝わってきました。「たくさん勉強して、たくさん面白がる」。学生の皆さん心に刻み付けましょうね!

担当:池田かすみ(4年)、藤田航(3年) 

 

研究室にて

榎本千賀子(えのもと ちかこ)先生
専門は映像文化論。大学時代に入っていた写真部で写真のおもしろさに気づく。2005年の個展「DAEDALUS」をはじめとして、様々な個展、グループ展を開催する。


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