人文学部学生プロジェクトインタビュー「高橋早苗」

研究内容について

学生:本日はよろしくお願いします。先生は『源氏物語』の研究をされているとのことで、研究内容について詳しく教えてください。

 

 

高橋先生(以後、高橋):平安の物語を研究するとき、まずは登場人物に着目することが多く、私も当初は紫の上の生涯に関心を持ったところから研究を始めました。けれど徐々に『源氏物語』の中に仕組まれたいろいろな「仕掛け」に関心が移っていきました。現在は『源氏物語』以前の作品や中国の漢籍と比較したり、『源氏物語』以後の作品と比べたりすることで、『源氏物語』のどんな特質が見えてくるか、といったことを中心に研究しています。観点としては比較文学ということになりますね。

学生:なるほど。「仕掛け」とおっしゃっていたのですが、具体的にどのような面からそれを見つけていくのですか?

高橋:物語を読んでいく中で、なぜだろう、どうしてだろう、と「引っかかり」を持ったところがスタートかもしれないですね。例えばこの出来事は歴史的にどうだったのだろう、という方向に行けば、史実との関連で分析することになりますし、この表現は今までどういうところで使われてきたのだろう、という方向に行けば、言葉に注目して他の作品との関連性を導き出すということになります。また、文化的な面にも着目します。私たちには1000年という時間の隔たりがあるので、当時の習慣などについては何も知らないと思って向かい合うしかありません。引っかかったところは歴史であれなんであれ、なるべく探れるといいなと思って研究しています。

学生:『源氏物語』以外で主に研究している作品はありますか?

高橋:研究していく中で、一般的にはあまり知られてないかもしれないけれど、『夜の寝覚(ねざめ)』という作品にも興味を持つようになりました。これは『源氏物語』の後に成立した作品なのですが、とにかく暗い話です(笑)。憂いや悲しみを前面に出す形で作られた作品で、主人公が、夜、物思いでなかなか寝付けなかったり、ふっと目を覚ましたりしてしまう、というのがタイトルの由来ですね。『源氏物語』の影響を強く受けている一方で、『源氏物語』以前の物語には全く見られなかった、ものすごく長い心理描写が特徴です。1人の女君が考えたことが何ページにも続く、この特徴がすごく面白いなと思っています。一時は欠巻物語(物語の一部が欠けている)ということであまり評価されなかったのですが、この10年の間に失われたと思われていた箇所が少しずつ見つかってきました。一部が見つかることで、その後物語がどんな展開を辿るのか少し分かるようになりますよね。そうするとまた物語の世界の読み解き方も変わってくるので、私の中では今アツイ作品です!(笑)。

 

先生の研究の魅力について

学生:先生にとっての研究の魅力を教えてください。

高橋:これはどの時代のどの作品にも共通して言えることかもしれないけれども、1000年離れた昔の物語だと思っていたのに、「あれっ、この感情や心理は一緒だ」「今の自分と重なる」と感じる瞬間があるのは何とも言えない醍醐味ですね。本当に感情移入して、泣けてしまう時もあります。また、読んでいろんなことを考えていく中で、「これは!」と何かに気づいた時のドキドキした感じというのも、ひとつの魅力だなと思います。一方で今の私たちが味わえない恋のかけひきだったり雅やかさだったりに心をときめかすいうのも面白いところで、「1000年の距離があるから面白い」時と、「いきなりぐっと縮まり重なって面白い」という時と、一粒で二度おいしいところがあると思います(笑)

 

高橋先生ご自身について

学生:先生はどんな学生時代を送っていらっしゃいましたか?

高橋:大学生というとみんなサークルに入っているイメージがあると思うのですが、実は私サークルはやっていなかったんです。ただ、10人くらいの気の合う男女のグループでイベントのようなことは結構やっていました。花火大会や、スケート、バーベキューもしました。でもそういうのってサークルほど頻繁ではなかったので、空いた時間は自分の趣味に費やしていました。本を読むのが好きでしたね。学生時代ってあまりお金ないですよね(笑)。そんな時にハマっていたのが、「場所と合わせて本を読む」ということ。この本を読むためには、どんな季節にどんな場所で見るのがいいのか考えて楽しんでいました。

学生:すごくおしゃれですね。

高橋:今年(2013年)の夏『風立ちぬ』という映画が上映されましたよね?あの映画に一部使われていた堀辰雄の『風立ちぬ』が好きで、学生の時その本も場所に合わせて読んでいました。だから今は逆に、映画の『風立ちぬ』を見たり聞いたりすると、当時本を読んだ場所や季節が思い起こされます。お金はない、でも時間はある。だから学生時代は、人から見たらバカだなって思われるようなことでもやってみればいいと思います。

学生:さすが文学の道に進まれただけあります!その当時から『源氏物語』をメインに研究されていたんですか?

高橋:実は、私は学部生の時は国文学専攻ではなく、国語学という言葉を専門に研究する研究室にいたんです。ただ、言葉を調べるためには、その言葉が用いられている文脈を知るために物語をたくさん読まなければならなくて。そうして平安時代の言葉を調べていくうちに、平安の物語は随分いろいろあるのだなと思うようになりました。そんな中で特に『源氏物語』に興味を持つようになったんです。だから、本格的に『源氏物語』について研究するようになったのは大学院からなんです。

学生:先生を惹きつける何かが『源氏物語』にあったんですね。

高橋:はい。一般的に『源氏物語』というと華やかなイメージが強いと思うんです。私自身も平安王朝物語の持つ華やかさ、特に貴族の姫君と貴公子がつむぎだす恋物語に強く心惹かれた、というのが最初のきっかけなんです。でもだんだん読んでいくうちに『源氏物語』はいろんな「仕掛け」を施している作品だなということに気が付いて、そこにも惹かれるようになりました。『源氏物語』には、これが成立する以前の作品、『竹取物語』や『伊勢物語』、『古今和歌集』などの要素がふんだんに盛り込まれていて、そうしたところに「仕掛け」が施されていたりするんです。例えば、『竹取物語』の「竹取の翁」という人物の名前を露骨に出すときがあるんですが、その場面に出てくる女君をかぐや姫になぞらえて解釈してみるとまた新たなことが見えてくる、というようなものです。なかには少し見ただけでは気が付かないような仕掛けもあり、そういうものを一つずつ見つけて読み解くことに夢中になってしまったんですね。そうして様々な仕掛けから浮かび上がってきたのが「辛いことも悲しいこともたくさんあるが、それでも人 は生きていく」ということ。だから一見華やかな場面でも、色んなことを考えた上で読み返してみると、とても切なくなるんです。華やかさの影にある憂いのようなものが、もしかしたら『源氏物語』の隠された魅力なのかなと思うようになりました。

 

源氏物語についての本を楽しそうに語る高橋先生 

 

学生:プロフィールを拝見させていただいたのですが、2001年に大学を卒業され、その後10年くらい大学院でいらっしゃったのですか?

高橋:そうそう、ずっと研究をしていたの(笑)。『源氏物語』を読み解くには、他の作品も読まなければいけなくて、それに伴って『源氏物語』以後の作品も気になってしまって。色んなことをしながら論文を書いていたら、10年くらい時間が経ってしまったんです。周りの人たちもみな同じくらい時間をかけて研究に没頭していたので、思う存分研究できました。

 

講義内容について

学生:先生はどんな講義をしていらっしゃいますか?

 

授業風景

 

高橋:講義は学生のみなさんと一緒に原文を読み進めていく形式のものです。だから演習と違って前もって予習してもらうというよりは、講義で考えていきたいと思ったことを、『源氏物語』に限らず、こちらが原文から抜粋して提示し、読み上げて訳しながら、これはこんなふうに語られている、等々を説明していく形になります。
今ちょうどやっているのが「生老病死」の4つの観点から平安の物語を見ていくというものです。この四つは今の私たちにも絶対に切り離せないものなので、この観点から捉えることで平安の物語を身近に感じてもらえるとともに、その当時にしかなかった文化的な事柄にも気がついてもらえるといいなと。更にはそれが物語の中でどんな意味を持っているのか、なども見ていけたら面白いなと思っています。
「生老病死」の「病」にあたることですが、『源氏物語』の若紫巻(わかむらさきのまき)で、光源氏が幼少期の紫の上を垣間見するくだりがありますね。その前に光源氏は病にかかっているんですよ。「わらわやみ」といって、今で言うマラリアだと考えられています。そういう聞きなれない言葉だけど実は今と重なるものだったり、本当によく知らない病気だったり、一方で「風邪」という言葉も昔からあるので、実は同じものなんだなって思ったり、そういうところからまず関心を持ってもらいたいです。それに併せて実際どんなふうに「病」を治していたのか、どういうふうに症状が語られていたのか、といった当時の文化面や生活面も知ってもらえればいいかなと思っています。

 

高校生へのメッセージ

学生:高校生へのメッセージや要望をお願いします。

高橋:高校の古典だと、覚えないといけないことや自分なりに獲得しておかなければいけない知識というのがきっとあると思うんだけれど、大学での研究の場合、それはいざ物語や作品に向き合ってからその都度その都度調べることで得ればいいものだと思います。だから高校生の皆さんには、そうした知識の詰め込みだけではなく、平安の物語以外の物語に触れる経験をたくさんして欲しいんです。王朝物語じゃなくても近世の物語や近代の文学作品など、いろんな作品を読んだ上で改めて平安の物語に向き合ったときに、どんなことが見えてくるのかという「引っかかり」がすごく大事な気がするんです。これは一朝一夕で身につくことではないと思うんですね。高校、そして大学の時はたくさんの本と出会う時期だと思うので、研究対象として平安時代を意識していても、みなさんにはできれば色んな本やほかの時代の物語を見ておいて欲しいです。そういう蓄積はすぐにはできないものなので。読んでみて、やっぱり近世の方が面白いなって思えばそれでもいいと思います。最初から平安の物語に絞って読んでしまうと、何かこぼれ落ちてしまうものがある気がするんです。だから偏りがあってもちろん構わないので、色んな本を読んでおいてもらいたいというのが要望です。受験生にとっては大変かもしれないですね(笑) そんな時間はないよ!って思われそう。

学生:本日はありがとうございました!

 

インタビューを終えて

古典の知識が高校時代で止まっていた私たちでしたが、高橋先生の繰り広げる魅力的な『源氏物語』のお話にすっかりひきこまれてしまいました。沢山の資料を手元に1つ1つ質問に答えてくださる先生の姿からは、研究に対する熱意と、優しく丁寧な人柄が伝わってきました。まだまだお話が聞き足りないほど楽しいインタビューとなりました。

担当:井川美咲(3年)、春日紗希(3年)

 

高橋早苗(たかはし さなえ)先生
日本・アジア言語文化学プログラム。専門は日本中古文学。山口県出身。
祖母が仙台に住んでいたことから、ゆかりのある東北大学に入学。
そこで出会った『源氏物語』を中心に、平安時代の文学作品を研究している。


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