人文学部学生プロジェクトインタビュー「キム・ジュニアン」

日時:2014年10月24日(金)10:30~12:30
場所:総合教育研究棟A棟6階 キム研究室
インタビュアー:松岡きらら(メディア・表現文化学2年)、田邉郁美(歴史文化学3年)
インタビュイー:キム・ジュニアン先生(メディア・表現文化学准教授)

キム先生の研究内容について

学生:本日は取材にご協力頂きありがとうございます。まず、これまでのご経歴やご専門の選択理由を教えて下さい。

キム先生:そうですね、1995年くらいに、『KINO』という映画雑誌の編集長に会ったことが、この世界に入ったきっかけですね。彼に私が当時個人的に書いていたアニメーション映画に関する文章を読んでいただいたところ、毎月連載をやらないかと声をかけていただいて、いきなりプロとしてデビューすることになったのです。こうして突然アニメーション評論に関わっていくことになりますが、実は私の修士課程までの専攻は工学でした。

学生:えー!全然アニメーションは関係なかったのですね。

キム:そう思われますよね(笑)。ですので当時はそのままエンジニアとして生きるつもりだったのですけれども、1996年、私が原稿の三分の一程を担当した、『KINO』の日本アニメーション特集号が大ヒットしたことが大きかったです。その原稿を読んだ他の出版社の編集長から声をかけていただいて、本を出版することになりました。そのようなこともあり、次第にこの分野が自分に合っているなと思い、兵役を終えた2000年前後からは完全に方向転換して、いくつかの大学で非常勤講師をさせていただいたり、『KINO』の編集長が企画を進めていた映画祭の常勤スタッフとしてアニメーション部門の催しを担当する仕事をしていました。編集者の方に声をかけていただいて本の契約を結んだのが1997年だったのですが、ずっと私は理系の道を歩んでいて、人文的な教養の深みが足りなかったため、いろいろと勉強して、実際に出版したのは2006年でした。その本が『イメージの帝国:日本列島上のアニメーション』です。

学生:韓国語で書かれていますね。

キム:はい、でも後ろに日本語でもインデックスがありますので、どういう作品や人物が言及されているのか分かると思いますね。

学生:本当だ、日本語で大島渚が載っていますね。

キム:そうですね。アニメーションだけでなく、日本映画に関することにも触れています。2006年に出版するまでは全てを注いで本に集中していたのですが、本を出してからは自分の人生がこれからどうなるのか不透明でした。でも運が良かったのか本を出したその年、三年前に審査員として参加していた海外の映画祭の共同ディレクターだった方から、彼女が創刊するアニメーション専門学術誌の編集委員になってほしいとの連絡を受けました。これは面白いし、自分にもいい勉強になるかもしれないと思い、イエスと答えました。二年後の2008年、私はこの学術誌の副編集長になるのですが、この年は私にとって、とても貴重な体験をすることが出来た年でした。その年、海外での日本に関する研究の助成や国際交流の支援を行う、日本国際交流基金という機関から日本に関する著作の公募があり、『イメージの帝国』がポラナビ著作賞という賞に選ばれました。これが私にとって大きな支えになり、アニメーションの研究者としてやっていけるかな、という構想が出来始めました。そして日本国際交流基金の研究支援にも応募したところ、2012年4月に合格の連絡をいただきまして、同年日本に渡ってきました。

学生:では、来日されて二年ほどになりますね。

キム:そうですね。でも勿論その前に学会の発表や講演、日韓のアニメーション交流でよく来日していて知り合いの方も沢山いらっしゃったので、まったくの新天地ではなかったです。妻も日本人で私の活動を支えてくれていたので、安心感がありました。いろんな方々に恵まれ楽しく一年を過ごしていたとき、知り合いの大学の先生方から「大学教員に応募してみたらどうか」と推薦していただき、いくつかの大学に応募して、こうして新潟大学に赴任することになりました。

 

キム先生の好きなアニメーションを教えてください!!

学生:アニメーション研究に情熱を注いでいるキム先生ですが、先生の好きなアニメーション作品を教えて下さい。

キム:面白い質問ですね(笑)。私の研究キャリアにおいて貴重な作品との出会いがありました。一つ目は、今イギリスで活動しているQuay Brothersの「Street of Crocodile」です。本当に作品にショックをうけて、今でも彼らの作品で研究をしています。二つ目は川本喜八郎という人形アニメーション作家の作品です。NHKの人形劇「三国志」や「平家物語」の人形を制作された方です。三つ目が押井守の作品。この三人には実際に会ったことがあります。

学生:お会いしたことがあるんですか!

キム:「いや~生きていてよかった」と思いました。緊張しすぎて川本監督のアトリエでは倒れてしまいました(笑)。Quay Brothersの場合は、彼らは一卵性双生児なので、ある映画祭でその一人に会った時、どちらなのか分からなかったです(笑)。いちばん最近お会いしたのは押井守監督です。東京芸術大学のシンポジウムにてお会いしました。個人的に会話することができたことはありませんが・・・天才ですね。

 

新潟大学で担当している授業について

学生:今、キム先生はどのような授業を開講していらっしゃるのですか?

キム:今は、学部の授業を二つ、大学院の授業を一つ担当しています。学部の授業の一つが演習授業なのですが、実は、韓国には演習授業がないのです。新潟大学の前にいた大学で演習授業に参加させていただいたことがあって、非常に興味を持ちました。先生方が自分の研究しているテーマを持ち寄って、それを学生さんたちと共有するという、素晴らしい授業のスタイルだなと思いました。今やっている演習のテーマは「海外で受容される日本のアニメ」です。海外で日本のアニメがどのように語られているのかについて、日本国内の評論家が語る文章と海外の文章を読み、毎回テキストに関する要約や意見を付け加えて発表していただいたり、そして関連する映像を見ながら議論する形です。もう一つの学部の授業は、概説と言いまして、メディアとしてのアニメーションへの理解を深めようという、大人数の座学の授業です。数年前の私のアニメーションに関する考え方は、アニメーションは第七番目の芸術と呼ばれる映画と同じように、芸術の一つで、きちんとした方法で語ることが出来るといった感じでした。しかし、最近は芸術というよりはメディア、更に言うと機械、視覚的なテクノロジーとしての側面に非常に興味を持っています。この授業では、実際に作品を見ながら、そのようなことを一緒に考えていこうと思っています。

キム先生の演習授業の風景

キム先生の演習授業の風景

 

キム先生の学生時代について

学生:先生はどのような学生時代を過ごしていましたか?

キム:そんなに積極的な学生ではなかったですね。当時はインターネットも無く、情報が少なかったので、大学の専攻についても何を教えるところなのかあまりわからないままでした(笑)。最初に進学しようとした大学の学科は建築学科でした。建築学では図面を描くことがありますよね。元々絵を描くのが好きでしたので興味を持ちました。しかし、高校二年生の頃に、当時大学生の姉の影響で偶然フロイトの夢の解釈についての本を読み、心理学にも興味を持ちました。でも姉から、大学で教える心理学と、本に書かれている心理学は違うと教えられたため、進路を医学部の精神科医に変更しようと考えました。ところが私、実は血が苦手で、自分が注射を打たれる場面も見ることができません(笑)。精神科医でも解剖の授業はあるらしく、結局、建築学科を選びました。ですが一年浪人してしまいました。その間に気が変わり、機械工学の分野に進むことにしました。当時、機械設計学科という学科があり、今でしたら大学のホームページで調べることができたかもしれませんが、きちんと調べないまま機械設計という言葉にひかれて進学してしまいました。大学に入ってからは、理系でしたから天文学や物理学、化学が好きでした。実験もできましたし、本当に楽しく過ごしました。でも、二年生の専門の授業に入ってから、少し難しいなと感じました。自分に合わない授業があったり、分野で要求される能力の実体がわかってきましたが、当時は一度決めた専攻でしたし、そのまま行こうという気でした・・・今考えますとちょっと情けない学生でしたね。大学図書館などの施設を活用したり、積極的な学生でしたら、先生を訪ねて相談させていただいたりできたかもしれませんが、それが充分できなかった。そのことを今でも後悔・反省しています。私の大学時代は情けないことばかりかもしれませんけれども、当時教養科目として取っていた授業が良かったという思いと、専門だった機械工学の必須として取っていた物理学や化学、機械工学の専門から学んだ色々なことが、人造人間など私の研究テーマと実は関連しているのです。私が理系から今の研究分野に移ってきて良かったことは、理系の知識を持っていて、それが資源になっているということですね。
 

高校生へのメッセージをお願いします!

学生:最後に、新潟大学の受験を考えている、またはメディア・表現文化学に興味を持っている高校生へメッセージをお願いします。

キム:メディアあるいは表象文化に関しては、今日私たちは、メディアやそれを経由したエンターテイメントに包まれて生きていて、それが自然な状態になっていますよね。しかし、メディアはあくまでも人間社会の中で作られたものです。メディアが存在する状態は決して自然ではないという認識には、エンターテイメントや人間社会、そして自分自身を理解する貴重な手がかりがあります。そして、この分野を学ぶにあたっては、自分の好みや関心を示すことも非常に重要です。自分自身の好みや関心は、一見個人的なものに思われますが、それはこれまで生きてきた中の経験からできたものですから、メディア社会とも関わっているのです。テレビや映画、デジタルなどが我々の生活環境を取り巻いていることに対して、自分の好みや関心を参考にしながら、メディア・表現文化学プログラムで学ぶことで、これからどのような世界に生きていくことになるのか理解できると思います。

 

キム先生と著作『イメージの帝国』

キム先生と著作『イメージの帝国』

 

インタビューを終えて

流暢な日本語で我々のインタビューにお答えくださったキム先生。インタビュー前には想像もつかなかった先生のこれまでの活動や、研究への熱意をひしひしと感じました。

 

キム・ジュニアン先生
メディア・表現文化学プログラム。韓国出身。専門はアニメーション研究、人間機械論。海外の映画祭での仕事、雑誌編集委員などの経験を経て2012年来日。著書は『イメージの帝国:日本列島上のアニメーション』など多数。


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