阿部賞

2017年度受賞者は渡邊登教授

2017年度第12回「新潟大学人文科学奨励賞阿部賞」授賞式は、創設者阿部洋一氏ご臨席の下、9月27日に人文学部長室において執り行われました。今回の受賞者は人文学部渡邊登教授でした。渡邊教授は政治社会学がご専門ですが、本年佐刊行されたご著書『「核」と対峙する地域社会 巻町から柏崎刈羽。そして韓国へ』(リベルタ出版、2017年3月)に対し、贈られました。人文学部研究推進委員会の選考理由は以下の通りです。

この著作は、著者の多年の社会学的調査・考察に基づいて、ローカル、ナショナルのみならずグローバルレベルでも「原発維持」「脱原発」に様々揺れ動く福島第一原発事故以降(=ポストフクイチ)の現状において、原発政策は変容しつつあり、これまでとは根本的には異なる思想のもとでの社会構想が求められていると看取し、この社会構想への回答=ポスト「原発依存」社会に向けた地域公共圏構築の可能性を、仮説的に提示したものである。本書がとくに優れる点は、長期に亘る調査にもとづいた以下のような事例研究の積み重ねにより、上記の仮説を説得的に組み立てていることである。すなわち、直接的に国のエネルギー政策、原発政策の変容に直面し、その課題に対して最も直裁的な形での対応(原子力発電所の受け入れ)を迫られた新潟県旧巻町の事例、次に、高中低レベル放射性廃棄物処理場建設計画に直面した韓国全羅北道扶安郡の事例、そして、これら日韓両事例の比較検討、さらにまた、両事例を参照点とした、原発事故以降の原発立地域(柏崎市・刈羽村)及び周辺地域(新潟市・長岡市)住民の生活意識、生活構造、社会構造(社会関係)の変容とそれに裏付けられた取り組みの描出、こうした豊かな事例研究において本書は他書を凌駕している。

 

2016年度受賞者は鈴木光太郎教授

2016年度第11回「新潟大学人文科学奨励賞阿部賞」授賞式が創設者阿部洋一氏ご臨席の下、8月31日に人文学部長室に執り行われました。

今回の受賞者は人文学部鈴木光太郎教授でした。エクス・マルセイユ大学ジャック・ヴォークレール教授との共著『De quelques mythes en psychologie: Enfants-loups, singes parlants et jumeaux fantômes(心理学の神話 オオカミ少女、話すチンパンジー、幻の双子)』(Editions du Seuil, 2016)に対し、贈られました。

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下の通りです。

この著作は、鈴木光太郎氏が、エクス・マルセイユ大学のジャック・ヴォークレール氏との共著の形で、フランスの大手出版社スイユ社の「開かれた科学叢書」のなかの1冊として2016年1月に刊行されたものである。本書は鈴木氏が自身の多年の心理学研究の成果を踏まえつつ、心理学に関する俗信・迷信を読み解いた単著『オオカミ少女はいなかった』(新曜社、2008年/増補版:ちくま文庫、2015年)の内容をもとにしており、巷間に流布する心理学の9つの神話について、新たな発見も入れて一般の読者向けに書き下ろした著作である。フランスの3大新聞のうち2紙Le MondeとLibérationの書評欄でとりあげられたほか、Pour la Science、Les Cahiers de Science & Vie、Sciences Humaines、Soins Psychiatrie、Livres Hebdo、Études、Bulletin de Psychologieなどの雑誌にも書評が掲載され、科学読み物として高い評価を得た。ロシア語版、トルコ語版、セルビア語版での翻訳刊行も決定されている。

DSCN0668 DSCN0688

2015年度受賞者は宮崎謙一教授

2015年度第10回「新潟大学人文科学奨励賞阿部賞」の授賞式が、創設者である阿部洋一氏のご臨席のもとに、8月5日午後4時30分より人文学部長室で執り行われました。

今回の受賞者は人文学部の宮崎謙一教授でした。宮崎先生はご専門が認知心理学で、とりわけ聴覚に関する実験心理学の研究を長年続けてこられました。今回の受賞は、こうした多年の研究成果に基づき、昨年7月に化学同人から出版された『絶対音感神話 ―科学で解き明かすほんとうの姿』(全250頁)に対して贈られたものです。

abe_prize_2014_1 abe_prize_2014_2

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下のとおりです。

これまで巷間では、「絶対音感」は、すぐれた音楽家に不可欠な能力であると信じられてきた。しかし、科学的な実験から、絶対音感が必ずしもそのようなものではなく、場合によっては音楽にとって好ましくないように作用することが明らかにされている。宮崎氏はこれまで絶対音感や相対音感について一連の実験的研究を行ない、その研究成果をPerception & Psychophysics、Music Perception、Journal of the Acoustical Society of America等の国際専門誌に発表してきた。今回の著書では、それらの研究を踏まえ、絶対音感保持者の音の認知的処理特性、絶対音感と相対音感の国際比較などの研究を中心に、絶対音感についての科学的成果を解説しながら、絶対音感の実像の詳細を解き明かした。また、演奏や音楽鑑賞では相対音感が重要だとし、絶対音感を重んじてきた日本の音楽教育にも、大きな一石を投じている。絶対音感については、科学的なデータをもとに説得力に富む議論を広く展開した本はこれまでになく、宮崎氏の著書はそれをなし得ている。なお、本著書は出版直後に『日本経済新聞』書評欄や『日経サイエンス』書評欄等でもとりあげられるなど、大きな反響を呼んだ。

2014年度受賞者は中本真人准教授

2014年度第9回「新潟大学人文科学奨励賞阿部賞」の授賞式が、創設者である阿部洋一氏のご臨席のもとに、8月6日午後4時半より人文学部長室で執り行われました。

今回の受賞者は人文学部の中本真人先生でした。

abe_prize_2014_1 abe_prize_2014_2

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下のとおりです。

中本真人氏の著書『宮廷御神楽芸能史』は、宮廷の御神楽をめぐって、主として文献資料にもとづきながら、丹念な基礎的研究を行ったものである。その構成は以下の四部から成る。

第一部 宮廷の御神楽の先行儀礼

第二部 宮廷の御神楽と人長・楽人

第三部 八幡信仰と御神楽

第四部 宮廷の御神楽と楽人の説話及び伝承

本書は、神事としての性格のみならず、天皇と公家による饗宴の場でもあった宮廷御神楽とはいかなるもので、どのような目的で行われたのかについて、明らかにしようとしたものである。これまで未解明の部分の少なくなかった次第や儀礼環境、御神楽の主たる担い手である楽人や人長、御神楽の開催を支えた王卿貴族や武家、寺社の活動について多角的に論じ、平安期の宮廷芸能史研究の水準を引き上げた労作である。すでに日本歌謡学会からも、2013年度の第31回志田延義賞を贈られており、専門の学会でも高い評価を得ている。本学赴任以前の刊行ではあるが、中本氏の優れた研究力量を示すものであり、今後の本学での研究奨励の意味からも、選考に値すると判断される。

2013年度受賞者は番場俊准教授

2013年度第8回「新潟大学人文科学奨励賞阿部賞」の授賞式が、創設者である阿部洋一氏のご臨席のもとに、8月7日午後6時より人文学部長室で執り行われました。

今回の受賞者は人文学部の番場俊准教授でした。番場先生はご専門がロシア文学、とりわけドストエフスキーとバフチンの研究です。昨年11月に水声社から出版された『ドストエフスキーと小説の問い』(全363頁)は既に5月に第4回表象文化論学会奨励賞を授与されました。また近々日本ロシア文学会賞も受賞されるとのことです。

2013年は、番場先生の今までのご研鑽が一度に評価される年となり人文学部構成員一同より心からお祝い申し上げます。

阿部賞授賞式は、番場先生から阿部氏への著書献呈、選考委員長より選考経過および選考理由の紹介があり、阿部氏より番場先生への目録贈呈が行われました。その後は番場先生を囲んで和やかに歓談が行われ、6時30分頃散会いたしました。

(文責:S.K.)

 

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下のとおりです。

番場俊氏の著作『ドストエフスキーと小説の問い』は、ドストエフスキーの小説作品の特異性を、小説というジャンルの歴史的生成条件と、そのジャンルとしての限界の内破という両極のうちに位置づけ、小説の細部における多様な〈世界〉との接触の具体的な相貌を克明に明らかにしようとするものである。このために番場氏は、一九世紀において〈小説〉の到来がいかなる意味をもち、またドストエフスキーがこの到来をいかに重く受け止め、いかに新たな地平にそれを転位させたのかを、近代において他者に向けて〈内面〉を書き綴ることの意味(「手紙」)、宗教的/法的制度と接合しつつ〈声〉によりそれを打ち明けることの機能(「告白」)、新聞や雑誌といった同時代のメディア的想像力との連結をそれぞれ掘り下げながら、『カラマーゾフの兄弟』を頂点するドストエフスキーの「小説の問い」の可能性を考察した。近代世界が生み出した「文学」、とりわけその中核的な表象システムである「小説」の基底的諸条件を、鮮やかに抽出するきわめて独自な労作であり、邦語によるドストエフスキー研究に新たな地平を開く優れた研究である。

 

2012年度受賞者は錦仁教授

2012年8月8日午後6時より、第七回新潟大学人文科学奨励賞 阿部賞の授賞式を人文学部長室で執り行いました。

本年度の受賞者は、人文社会教育科学系教授 錦 仁 教授です。対象業績は、錦先生のご著書
『なぜ和歌を詠むのか 菅江真澄の旅と地誌」』(2011年3月。笠間書院、350頁)
です。

高木裕学部長の挨拶ののち、人文学部研究推進委員会委員長より選考経過と選考理由が述べられ、阿部洋一氏より錦先生に「目録」が手渡されました。その後阿部氏と錦先生を囲んで和やかかつ熱心な歓談が行われました。

   

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下のとおりです。

錦 仁 氏著『なぜ和歌を詠むのか 菅江真澄の旅と地誌」』(2011年3月。笠間書院)は、江戸後期、信越・東北・北海道などを歩き、農民の生活を活写し地誌を作成した人物としてとしてのみ評価されてきた菅江真澄を論じたものであり、柳田國男とその後継者である内田武志・宮本常一らによって作られた民俗誌の記録者としての菅江真澄像に国文学の立場から修正を迫る力作である。

柳田が菅江の著書を、「通例埋没して些かの痕跡を留めないものの生活」を「是以上如実には描き出せぬと思ふ程度に、活き活きと」描き常民の歴史を記したところにその最大の功績を見るのに対して、錦氏は柳田が切り捨てた菅江の文学に着目する。

氏は、菅江の秋田の地誌・旅日記が「正確な観察記録」であり「資料的価値がすこぶる高い」ことを認めつつ、菅江の文章が「逸脱」「過剰」「愉楽」に満ちていることの意味を問う。

氏によれば菅江は、江戸時代に広く読まれた『前々太平記』(一七一五序)などに従い、引用する資料を三種に区別する。その三種とは、

一、『古事記』『日本書紀』などの歴史書、
二、『奥羽永慶軍記』『秋田六郡三十三観音巡礼記』などの地域の歴史・地誌などの資料、
三、村の「古老(オユ)」が語る「モノガタリ」

である。錦氏は、菅江の地誌が主として三の、村の「古老」の語る伝説・伝承から成り立つ民俗の書ではないことを実証し、それでは菅江の地誌の目的は何であったのかと問いを深める。そして、氏は、菅江の地誌は「藩主が読む」ことを念頭に置き、一方で、常陸国から来た佐竹氏に対して、たとえば平鹿郡の沼館八幡宮の由来を語る中で源義家・小野寺氏からの継承の歴史的正当性を伝えることによって藩主の意に沿うことを目指し、他方で、「他国の資料も活用し、地誌とは思えぬ話もふんだんに盛り込み、支配者たる藩主」に「愉楽」を届けようとしたのだという驚くべき結論を導く。

錦氏は、同時に、菅江真澄が多く残した和歌に注目する。著者は、たとえば柳田國男によって「凡庸」で「真率味」が欠けると酷評されてきた菅江の和歌が、彼にとってたんなる手すさびなどではなく、「和歌」の本義を体現していると説く。すなわち、

一、和歌とは、古来、天と地を結び、天皇・藩主と民衆をつなぐという思想が、実は、菅江の和歌に明確に認められる、
二、和歌の思想はそれにとどまらず、都と国土の関係にも及び、和歌に詠われることによって「辺境」もまた国土の中に正しく位置づけられる

と指摘する。この和歌の機能に注目することによって著者は、菅江の地誌に見られる一見恣意的に見える地名変更は、実は、「和歌を詠みながら領内を巡覧する藩主」のために和歌にふさわしい地を探し、それに「能き名」を与えるという藩主の「美意識」と「領国賛美」、そして秋田の地を全国に向けて誇らかに「発信」するという意向の反映であったという瞠目すべき結論を導く。

本書は、菅江真澄の旅日記と地誌を国文学の立場から大胆に読み替え、一見相容れないかに見える菅江の地誌と彼の和歌が不可分の関係にあり、「和歌の広大な宇宙」に秋田という地域を確固として位置づける試みであり、それは秋田藩主佐竹義和の「文化意志」に他ならなかったことを見事に解き明かしている。

 

2011年度受賞者は橋谷英子教授

2011年8月3日午後6時より、第六回新潟大学人文科学奨励賞 阿部賞の授賞式を人文学部長室で執り行いました。

本年度の受賞者は、人文社会教育科学系教授 橋谷英子教授です。対象業績は、科学研究費補助金出版助成を受けて刊行された橋谷先生のご編著
『浙江省舟山の人形芝居―侯家一座と「李三娘(白兎記)」』(2011年2月 風響社、529頁)
です。

關尾史郎学部長の挨拶ののち、人文学部研究推進委員会委員長より選考経過と選考理由が述べられ、阿部洋一氏より橋谷先生に「目録」が手渡されました。その後阿部氏と橋谷先生を囲んで和やかに歓談が行われました。

第6回阿部賞授賞式の様子   橋谷(馬場)秀子先生

人文学部研究推進委員会の選考理由は以下のとおりです。

馬場(橋谷)英子編著『浙江省舟山の人形芝居―侯家一座と「李三娘(白兎記)」』(2011年2月 風響社、529頁)は、中国の民間藝能の一・神に捧げる指遣い人形芝居が、一離島に今なお伝承されているすがたに着目し、数々の困難な作業を克服し、これまで文字とほとんど縁のなかった「口誦藝能」を、はじめて文字記録として定着させた画期的な業績である。かつては同種の藝能が中国全土で広く行われていたものの、現在はほとんど失われてしまったらしく、それがこの地において、演劇専業の座と共同体とが密接な関係を保ちながら今なお生きていることを掘り起こしたのである。著者の慧眼に深く敬意を表する。

舟山の人形芝居には、種々演目があり、本書はそれらも丁寧に紹介しているが、圧巻は、全体の三分の二ほどを占める「劉知遠」と「李三娘」の夫婦の物語に関する研究である。この物語は、英雄「劉知遠」が妻を故郷に残して征戦に参加し、苦難と成功の後に故郷に帰り、苦境にあった妻を救い出して再会を果たすという、ユリシーズ型の物語である。明代の『白兎記』を源流とする藝能だが、題名『李三娘』が示すように、夫だけでなく妻にも光が当てられた芝居であることは、民衆の支持によって育まれてきた伝統を強く感じさせる。

本書は、全曲の上演に三日かかるという長大な物語『李三娘』に関して、口承および即興のテキストを中国語表記に起こした上、生き生きとした日本語にも翻訳し、写真や図解を加えて、余すところなく記録している。さらに、上演一座の構成、上演方法、地域住民と人形芝居との関係等々を、詳しく紹介し論述している。

本書は共同執筆によって成るものだが、編者・橋谷(馬場)氏が主導的に研究を推進して来たことは一目瞭然である。中国文化・文学、また日本文化・文学を考える上でも刺激的な成果と考えられる。

 

2010年度受賞者は細田あや子准教授

8月4日(水)に「2010年度新潟大学人文科学奨励賞 阿部賞」の授賞式が人文学部長室で行われました。今年度の受賞者は細田あや子准教授(西洋中世美術史)で、受賞対象は、細田准教授の著書『「よきサマリア人」の譬え 図像解釈からみるイエスの言葉』(三元社、2010年)でした。

この賞は,新潟大学における人文科学系の研究の振興を目的として、2006年度に阿部洋一氏の寄附金を基に人文学部が創設したもので、今回で5回目を迎えます。

人文学部研究推進委員会による選考理由は以下の通りです。

「細田あや子著『「よきサマリア人」の譬え 図像解釈からみるイエスの言葉』は、著者がハイデルベルク大学に博士論文として提出し、2002年にドイツ語で出版された書をもとにその後の文献をも考慮し手を加えて出版されたものである。本書は、ナザレのイエスが人々に「譬え」を用いて語ったさまが聖書に記されている点に着目し、中でも作例が比較的多く残されている「よきサマリア人」の譬えに注目し、福音書のテクストがいかに画像として表現されたかを問うた大著である。本書の特徴は、第一に、福音書におけるイエスの譬えを教父時代、中世神学に遡り、文献学的に詳細に分析している点であり、第二に、「よきサマリア人」の画像の表現方法・表現形態を丹念に読み解き、その多義的構造を明らかにし、さらには、それらの画像がどのように伝達され、受容されたかという画像によるコミュニケーションの問題にまで説き及んでいる点である。多くの信者が文字を読むことができなかった時代に「声の文化」のなかで図像が、朗読、身振り、そして視覚によって「身体的に」重層的に理解されたという著者の指摘は鋭い。西欧文化圏のみならずビザンティン文化圏をも包括した多数の図像を緻密に読解した本研究は画期的な業績であり、高く評価できる。」

 

2009年度受賞者は石田美紀准教授

8月5日(水)に「2009年度新潟大学人文科学奨励賞 阿部賞」の授賞式が人文学部長室で行われました。今年度の受賞者は石田美紀准教授(映像文化論)で、受賞対象は、石田准教授の著書『密やかな教育――〈やおい・ボーイズラブ〉前史』(洛北出版、2008年)でした。

この賞は,新潟大学における人文科学系の研究の振興を目的として、2006年度に阿部洋一氏の寄附金を基に人文学部が創設したもので、今回で4回目を迎えます。

人文学部研究推進委員会による選考理由は以下の通りです。

「石田美紀氏『密やかな教育〈やおい・ボーイズラブ〉前史』は、七0年代における現代日本サブカルチャーの黎明期に焦点をあて、サブカルチャー的少女文化の生成という観点から、マンガ、小説、映画批評など多領域にわたる女性表現者たちの実験や思索の軌跡、及びそれらを支えた雑誌媒体の役割を精緻に分析した労作である。石田氏は、時代に先駆け、既成の公的な制度の外で思考や表現を続けた作家たちの仕事を、同時代の文脈に丹念に位置づけ、その歴史的射程を再評価する。その分析手続きは周到かつ説得的であり、結果、本書で描出された日本のサブカルチャー生成史は、きわめてスリリングなものとなった。本書は〈女こども〉文化と呼ばれ、周縁に追いやられた文化の担い手たちの復権のための宣言であるとともに、〈サブカルチャー〉と〈文化〉という二項対立をめぐる私たちの通念を異化してやまない知的挑戦の書である。阿倍賞受賞にふさわしい、人文学の新たな可能性を開く著作である。」

 

2008年度受賞者は松井克浩教授

8月6日(水)に「2008年度新潟大学人文科学奨励賞 阿部賞」の授賞式が人文学部長室で行われました。今年度の受賞者は松井克浩教授(社会学)で、受賞対象は、松井教授の著書『ヴェーバー社会理論のダイナミクス―「諒解」概念による『経済と社会』の再検討―』(未来社、2007年)でした。

この賞は,新潟大学における人文科学系の研究の振興を目的として、2006年度に阿部洋一氏の寄附金を基に人文学部が創設したもので、今回で3回目を迎えます。

人文学部研究推進委員会による選考理由は以下の通りです。

「松井 克浩氏の著書『ヴェーバー社会理論のダイナミクス 「諒解」概念による『経済と社会』の再検討』は、ヴェーバーのテクストを緻密に再検討し、その結果、「近代批判」の視点からの、近代の帰結としての官僚支配による「鉄の檻」論に対し、彼の社会理論が「合理化された社会の動態的で重層的な存立構造論」(17頁)として読み解くことができるとし、彼の社会理論が「別様の社会の存立を探求するための潜在的可能性」(22頁)を内在していると指摘する。このような読解によって松井氏が、日本で長い歴史をもち蓄積のあるヴェーバー研究に新しい視点を付け加えたことは高く評価できる。」

授賞式の模様は、新潟大学のサイトでも報じられています。


研究者の方へ